棺には葱を散らして

2024-07-15

アタッチメントに基づく評価と支援(北川 恵、 工藤 晋平)の感想とかメモとか

かなり学術的に書かれている本。軽い気持ちでアタッチメントの勉強しようと思ったことを後悔させてくれるが内容はかなり濃かった。成人のアセスメントがリファーで済まされてたので、もうちょっと知りたかった。

  • アタッチメントとは:一者の情動の崩れを二者の関係性によって調整する仕組み
  • 極度の恐れや不安の状態にあるときに、無条件的に、かつ一貫して、養育者などの特定の誰かから確実に守ってもらえるという経験の蓄積で基本的信頼感を醸成する
  • アタッチメントを通して、自分あるいは他者はどのような存在であるか他者は近くにいて自分のことを守ってくれる存在なのか、ひるがえって、自分は困ったときに求めれば助けてもらえる存在なのか、愛してもらえる存在なのかと言ったことに関する主観的確信=「内的作業モデル」「愛の理論」を形成する
  • これを一種の人間関係のテンプレートとしてさまざまな他者との関りに適用し、結果的に多くの場合、その主要な特定他者との間で経験した関係と類似した性質の対人関係を持つにいたる
  • 幼少期に安定したアタッチメントを経験しえた個人ほど、危急時に多様な他者に対して素直に危険シグナルを発し、現実に他者から助力を得られる確率が高い
  • 虐待などの不適切な養育にさらされ、恒常的にアタッチメント欲求を満たしてもらえない状況下で育った子供は、この点においてかなり深刻な脆弱性を抱えている。怒りの表情だけには敏感であったり、特定の表情が浮かんでいない真顔を悪意ある怒りの表情と受け取ってしまうことが相対的に多い。自身に対して温かいケアを施してくれるような他者が眼前にいたとしても、被虐待児は、多分にその他者からゆがんだ形で自身に対する無関心や悪意を読み取ってしまいがち
  • アタッチメントは依存性ではなく、むしろ自律性をはぐくむもの。確実に保護して慰撫してくれる他者を「安心の基地」として、そこから外界に積極的に出て、自律的に探索活動を起こすことが可能になる
  • アタッチメントによって負の状態から抜け出すことがかなったという成功体験の積み重ねは、自分には他者を動かすだけの、世界を好転させるだけの力があるという確かな自信を与える。逆に、アタッチメントが不安定でシグナルが頻繁に無視される、なにも助力を引き出せないという経験の反復は、時に子供の中に根深い無力感を形成させてしまう
  • 例えば、何かにつまづいて転び泣いている子供の表情が目の前の大人の顔に再現され、それに子供が目を向けるとすれば、子供はその大人の顔を一種の鏡として、自分のその時の表情と自分の中で起こっている痛みの感覚をそこに見ることになる。子供の内的状態の理解が促される
  • 現に被虐待児は、自身に降りかかった悲惨のあ事象経験の意味や自らの中で生じているはずの内的状態を理解し、言語化すること、また他者の心的状態を的確に読み取ることが相対的に不得手
  • 乳幼児期(12・18か月)に養育者との間でアタッチメントが不安定だった個人は、安定していた個人に比して、32歳児の段階で約4倍多く種々の身体症状を訴えた。脳および身体発達への影響も見受けられる
  • 養育者とのかかわりの質に応じて自分の近接の仕方を調整する必要に迫られ、そこにアタッチメントの個人差が生じてくる
  • 子どものアタッチメントの特質
    • 回避型
      • 養育者との分離に際しさほど混乱を示さず、常時、相対的に養育者との間に距離を置きがちな子供。養育者は相対的に子供に対して拒絶的にふるまうことが多い。子供からすると、アタッチメントのシグナルを表出したり近接を求めるほど養育者が離れていく傾向があるため、あえてアタッチメント行動を最小限に抑え込む(回避)ことによって養育者との距離をある一定範囲内にとどめておこうとする
    • 安定型
      • 分離時に混乱を示すが、養育者との再会に際しては容易に静穏化し、ポジティブな情動をもって養育者を迎え入れる子供。養育者は、相対的に子供の潜在的な欲求たシグナルに対して感受性や応答性が高く、しかもそれが一貫しており予測しやすい
    • アンビヴァレント型
      • 分離に際して激しく苦痛を示し、なおかつ再開以後もそのネガティブな情動状態を長く引きずり、時に養育者に強い怒りや抵抗の構えを見せる子供。養育者は、子供に対して一貫しない接し方をしがち。子供からすると、いつどのような形でアタッチメント欲求を受け入れてもらえるか予測がつきにくく、結果的に子供は養育者の所在やその動きにいつも過剰なまでに用心深くなる。できる限り自分の方から最大限にアタッチメントシグナルを送出し続けることで、養育者の関心を自らに引き付けておこうとするようになる
    • 無秩序・無方向型
      • 近接と回避の間のどっちつかずの状態にあり続ける子供。近親者の死など、心的外傷から十分に抜けきっていない養育者や、抑うつ傾向の高い養育者の子供に、また日ごろから虐待されているような子供に極めて多く見られる
  • 加齢とアタッチメント
    • 少なくとも欧米件においてはおおむね加齢とともに徐々に拒絶・回避型の比率が高まっていくという傾向がある。親密な他者との死別などに接する機会が多くなる中で社会的接触や活動から徐々に撤退していこうとする、ある種普遍的な高齢者の心性を反映した結果なのか、それとも時代背景を異にするコーホート効果によるものなのか議論されている
  • 少なくとも3人に1人は成人になるまでに何らかの形でアタッチメントのタイプを変質させうる
  • 現今の研究者は、幼児決定論的な見方をほぼ捨てている。乳幼児期のアタッチメントは、その後の生育過程において個人がさらされることになる養育者の質や、貧困や親の教育歴なども含めた家族の生態学的条件を絡み合う中で、個人の発達の道筋や適応性に複雑に影響を及ぼす
  • 幼少期から成人期にかけてアタッチメントが不安定型から安定型へと変化したいわゆる獲得安定型の存在を明らかにし、その変化に現今の安定した異性等との関係性(特定パートナーとの恋愛関係や結婚生活の質など)が関与した可能性を認めているような研究もある
  • 親自身のアタッチメントの影響下で、相対的に同様のアタッチメントの性っ質がこどもに伝達されやすい
  • 思春期・青年期の子供とその親のアタッチメントの質の(一次元性の安定性得点に換算した上での相関が)合致度は0.2程度と低い値にとどまるらしく、そこからは子供の年齢の上昇に伴い、養育者以外の仲間や親密な異性等からの影響が徐々に強まることがうかがえる
  • アタッチメント障害
    • 「反応性アタッチメント障害」アタッチメント行動が不自然に抑制されている
    • 「脱抑制型対人交流障害」何らかの欲求充足を求めて無差別的に誰彼かまわず近接するが、欲求充足後の対象からの分離には一切の躊躇が認められないなどの様態を特徴とする
    • こうした特異な行動特徴の背景には、基本的な情動的欲求を持続的に無視されるなどの社会的ネグレクト・剥奪、安定したアタッチメント形成をはばむ主要な養育者の頻繁な入れ替わり、子供の数に対してケアする大人の数が極端に少ないことなどによる対象選択を阻む異常な環境といった劣悪な生育条件が関連している
  • 生後1年目において、子供は親との相互作用の経験に基づいて徐々にアタッチメントを形成していく。そして生後1年メン御後半には、親に対する明確なアタッチメントが成立する
  • 親と子供の関係性は、親の表象・行動、子供の表象・行動から形成される
  • 妊娠期における親の子供への表象は、出産後も連続して維持される傾向にある。妊娠期に置いて親の表象を評価することは、将来の親子の関係誠意の予測因を再早期に評価する手法(予防的介入に最も適した時期)
  • 社会的発達、特に、仲間関係の良好さや感情面に関する理解や記憶などとの間には、一定の肯定的な関連や影響がある
  • 人生早期に親子間で築かれるアタッチメントの質が、親子関係以外の場や文脈で見られる子どもの発達に関係し、さらに長期的な影響も確認されている
  • 子供が母親に対して築くアタッチメントの質と、父親に対するもの、あるいは保育者は幼稚園の先生と言った対象に対してのものは、それぞれ独立している
  • 乳幼児期は養育の面で親子関係が中心となる時期ではあるが、親以外との他者との間に安定したアタッチメントを形成できることがこどもの発達に持つ肯定的意味は大きい
  • 親からピア(友人、恋人)にアタッチメント対象が移行するタイミング
    • アタッチメント対象には、以下の4つの機能すべてが必要
      • 近接的希求:一緒に時間を過ごしたい人
        • 6~17歳においてはどの年齢においてもピアが親に比べて選択されている
      • 安全な避難所:落ち込んだ時に頼りにする人
        • 8~14歳にかけて親からピアへと大きく変化
      • 分離苦悩:離れ離れになったときにいないことが最も悲しい人
        • 15~17歳
      • 安心の基地:いつもあてにしている人
        • 15~17歳
    • 近接性希求と安全な避難所については、恋愛関係の段階に関わらず、ピアが親に比べて選択されており、恋愛関係が分離苦悩や安心の基地を伴った「完熟したアタッチメント」になるのは交際期間が少なくとも2年は必要であることが示唆された
  • 結婚を機に不安定型から安定型へ変化した人は実家から離れて暮らしている。現在の夫婦関係が幼少期の親子関係へのスタンスに対して影響を及ぼす
  • 概して女性は子供の誕生後にアタッチメントが安定している
  • 子供の誕生以前に夫からあまりサポートをしてもらえず、怒りを向けられたと感じている妻は、子供の誕生後にアタッチメント不安が高くなる
  • アタッチメント回避が高い夫を持ち、あまり夫に対してサポートを求めなかった妻は、子供の誕生後にアタッチメント回避が高くなっている
  • 妻に対してよりサポートができたと感じている夫ほど、子供の誕生後はアタッチメント回避が弱まっていた
  • 成人期におけるアタッチメント
    • 1990年代から、高次のレベルでは2次元に集約されると考えられている
    • 「不安」と「回避」の2因子構造
    • 不安はアタッチメント不安とも呼ばれ、アタッチメント対象に見捨てられるかもしれないという不安
    • 回避はアタッチメント回避とも呼ばれ、頼ったり頼られたりする親しい関係を回避すること
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